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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)2949号 判決

原告 亡白川喜代訴訟承継人 栗田富美子

〈ほか三名〉

右原告四名訴訟代理人弁護士 依田啓一郎

被告 亡落合喜義訴訟承継人 落合銈子

〈ほか六名〉

右被告七名訴訟代理人弁護士 木嶋繁雄

主文

一  原告らに対し、

(一)  被告落合銈子、同落合崇行、同落合啓昭は、別紙目録(二)の建物を収去して同目録(一)の土地を明渡し、

(二)  被告本間則行は、別紙目録(二)の建物のうち階下部分六一・九七平方メートル及び二階北側道路から二番目の室一四・八七平方メートルより退去して同目録(一)の土地を明渡し、

(三)  被告杉本勝美は、別紙目録(二)の建物のうち二階北側道路から一番目の室一三・二二平方メートルより退去して同目録(一)の土地を明渡し、

(四)  被告根本正男は、別紙目録(二)の建物のうち二階北側道路から三番目の室一四・八七平方メートルより退去して同目録(一)の土地を明渡し、

(五)  被告江口宗弘は、別紙目録(二)の建物のうち二階北側道路から四番目の室一四・八七平方メートルより退去して同目録(一)の土地を明渡せ。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一申立

(原告ら)

主文の一、三項と同旨(但し、被告本間則行に対しては、この主文記載のほかに、二階北側道路から一番目及び三番目の室、各一四・八七平方メートルからの退去をも求める。)の判決と、被告本間則行、同杉本勝美、同根本正男、同江口宗弘に対する各退去明渡請求部分につき仮執行の宣言。

(被告ら)

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二主張

(原告ら)

請求原因

1  原告らの先代白川喜代は、昭和二三年二月一二日、重城定吉より別紙物件目録(一)の土地(以下本件土地という)を買い受けてその所有権を取得した。

2  原告らは、昭和四九年九月二一日白川喜代の死亡により、本件土地の所有権を相続取得し、各四分の一ずつの持分を有している。

3  被告落合銈子、同落合崇行、同落合啓昭(以下この三名を併せて被告落合らという)は、同人らの先代落合喜義が本件土地上に有していた別紙物件目録(二)の建物(以下本件建物という)所有権を昭和四八年六月一一日同人の死亡により相続取得し、各三分の一ずつの持分を有して本件土地を占有している。

4  被告本間則行、同江口宗弘、同杉本勝美、同根本正男(以下この四名を併せて被告本間らという)は、それぞれ本件建物のうち請求の趣旨記載の部分を占有して本件土地を占有している。

5  よって、原告らは、本件土地所有権に基づき被告落合らに対しては本件建物を収去して本件土地を明け渡すことを、被告本間らに対しては本件建物のうち請求趣旨記載の各占有部分から退去して本件土地を明け渡すことを求める。

(被告ら)

一  請求原因に対する認否

1 請求原因1ないし3の事実は認める。

2 同4のうち、被告本間則行が本件建物の二階北側道路から一、三番目の室各一四・八七平方メートルを占有していることは否認し、その余の事実は認める。

二  抗弁

1 被告落合らの先代落合喜義は、昭和二三年二月一二日原告らの先代白川喜代より本件土地を建物所有の目的で期限の定めなく賃借した。仮に、賃貸借契約の締結につき明示の合意がなかったとしても、白川喜代は落合喜義から右日時より昭和二四年四月まで毎月直接地代を受領していたのであるから、この事実行為の繰返しにより黙示的に右と同旨の賃貸借契約が成立したものというべきである。

2 然らずとしても、本件土地については、以前に、訴外片山源が前記重城定吉から本件土地を含む一三二番地の土地を賃借していたところ、昭和九年一一月頃、訴外山本久三郎が右片山源から本件土地部分を転借の上、本件建物の改築前の建物(以下本件旧建物という)を建築所有し、昭和一七年九月三日、落合喜義が右山本久三郎から本件旧建物を買い受け、本件土地転借権の譲渡を受けている。従ってこれに因り、落合喜義は、原告らの先代白川喜代との間においても、昭和九年一一月頃に重城定吉と山本久三郎との間に成立した本件土地の右転貸借関係を承継していた。

3 被告本間らは、被告落合らから、それぞれ本件建物の各占有部分を賃借しているものである。

(原告ら)

一  抗弁に対する認否

1 抗弁1のうち、白川喜代が昭和二三年二月一二日以降翌昭和二四年四月頃まで落合喜義から毎月直接地代を受領していたこと、白川喜代と落合喜義間に同日以降本件土地についての建物所有を目的とする賃貸借関係があったことは認める。但し、その期間は、被告らの抗弁2に主張の昭和九年一一月から起算すべきである。

2 同2、3の事実は認める。

二  再抗弁

1 借地権消滅及び更新拒絶

(一) 本件旧建物は、遅くとも昭和四五年八月頃までに朽廃した。

本件旧建物は昭和の初め頃、訴外山本久三郎が建築したものであるが、落合喜義は昭和二七年に右建物から墨田区八広一丁目に転居して以来、右建物の修理も殆んど行わず、荒廃にまかせていたもので、昭和四五年八月当時には居宅としての使用に耐えず、既に朽廃していた。

(二) 本件土地の賃貸借成立に至る事情は、被告らの抗弁2のとおりである。従って当初の借地契約締結の当時、通常の借地期間である二〇年の契約がなされたものとすれば昭和二九年一一月に、もしその時点で期間の定めがなかったものとすれば昭和三九年一一月に、それぞれ賃貸借の期間が満了している。

(三) 白川喜代は落合喜義に対し昭和二七年当時から本件旧建物の買い取りと本件土地返還を申入れ、地代の受領を拒絶してきた。これにより、白川喜代は、右の昭和二九年一一月における借地権消滅の後も、或はまた昭和三九年一一月の借地権消滅の後も、それぞれ、遅滞なく落合喜義の土地継続使用に異議を述べてきたものである。

2 正当事由

白川喜代の右異議には次のように正当な事由がある。

(一) 落合喜義は、すでに昭和二七年頃、墨田区八広一丁目に新しく建物を建築してそこに転居し、以後、本件旧建物にはその従業員松葉某を住わせていたが、右建物の修理は殆んど行なわず、荒廃にまかせていたもので、右建物は、仮に朽廃と認められないとしても、それに近い状態となっていた。

(二) 落合喜義は、昭和四五年八月頃、白川喜代の許に本件旧建物と本件土地の借地権を他に譲渡したいと申し入れて来たことがあり、落合喜義において本件土地を自ら使用する意思がないことは明白であった。

(三) 落合喜義は、昭和四七年三月、白川喜代に無断で、事実上、本件土地の借地権を訴外本間武雄に譲渡し、同人の資金で右土地の本件旧建物を改築せしめた。

(四) 落合喜義は、昭和二七年九月より昭和四五年五月までの長期間に亘り、地代の供託もしていない。

(五) 一方、原告らは、本件土地の西側の一三二番の一の土地上に居宅(原告白川靖子、同喜美子、同博が居住)と、工場(原告栗田富美子の夫栗田実経営)を所有し、本件土地の南側は右工場の敷地及び自動車置場として使用しているが、右居宅と本件建物との間隔が三メートルぐらいしかなく、公道から右工場及び工場敷地に通ずる道が非常に狭くて不便であり、どうしても本件土地を自ら使用したい事情にある。

3 借地権無断譲渡による解除

(一) 落合喜義は、昭和四七年三月初め、原告ら先代に無断で、訴外の本間武雄、由里完二郎に本件土地の使用収益をまかせ、同人らがその資金で本件土地上の旧建物を現在の本件建物に改築し、これを他に賃貸して使用・収益している。その経緯は次のとおりである。

(1) 本件建物の改築請負契約は本間武雄と創美建設株式会社(代表取締役小笠原和裕)との間で締結され、工事代金はすべて右本間が負担支出している。右改築につき、落合喜義は工事代金の負担は全くしていないのみならず、現場に行ったこともない。

(2) 右改築後、本件建物の階下は本間武雄の息子である被告本間則行が使用し、二階は貸間にして由里完二郎が賃貸人となっており、落合喜義は家賃も自分では受領していない。

(二) そこで、白川喜代は、昭和四七年三月三一日、落合喜義に対し、書面をもって民法第六一二条第二項により本件土地賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなし、同書面は同年四月一日同人に到達した。

仮に、右解除が認められないとしても、原告らは、被告落合らに対し、本件口頭弁論期日において(昭和五〇年一月三〇日)民法第六一二条第二項により本件土地賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなした。

(被告ら)

再抗弁の認否

1  再抗弁1(一)のうち、昭和二七年に落合喜義が墨田区八広一丁目へ転居したことは認め、その余の事実は否認する。

落合喜義としては、本件旧建物を昭和四五年七月二五日頃から売却するつもりで空屋にしておいたので、ある程度荒れてはおり、外観は見ばえがしなかったが、朽廃の事実や倒壊の危険などはなかった。

同(二)は否認する。抗弁1記載のとおり、白川喜代が本件土地の所有権を取得した昭和二三年二月一二日、同人と落合喜義との間で新たに本件土地賃貸借契約が成立したものであり、期間の定めがなかったから、右契約の期間が満了するのは昭和五三年である。

同(三)のうち、白川喜代が引き続き地代の受領を拒絶してきたことは認め、その余の事実は否認する。白川喜代は漫然と賃貸借契約の存在を否定し続けたのみで、期間満了等を理由に異議を述べたことはないから、遅滞なく異議を述べたとはいえない。

2  同2の(一)のうち、落合喜義が昭和二七年、墨田区八広一丁目に建物を建ててそこに転居し、以後は本件旧建物にその従業員松葉某を住わせていたことは認め、その余の事実は否認する。

同(二)の事実は、落合喜義に本件土地を使用する意思がなかったとの点を除き、その余は認める。

同(三)の事実は否認する。

同(五)の事実は争う。落合喜義は、自ら道路に面する本件建物在隅を切除し、原告らの出入りに便宜を計ってきている。

同3の(一)の事実は否認する。

本件旧建物を改築したのは落合喜義であり、同人は本件建物につき自己の名で火災保険契約も締結し、また最後の建築仕上工事もしている。

本件建物の建築請負契約は、落合喜義と創美建設株式会社(代表者、小笠原和裕)との間で締結されたのである。契約書の文面は、右小笠原が注文者欄に本間武雄と記入した契約書を持参し、押印を求めたので、即金の必要性から右注文者の表示は後日訂正することとしてその侭本間武雄の署名捺印がなされているに過ぎない。その後右小笠原は、この契約の訂正を怠っているのである。

本件旧建物の改築の頃、落合喜義は入院中のため、改築の一切を由里完二郎にまかせ、同人はさらにこれを本間武雄に託したものであって、改築費用は、由里が二〇〇万円、本間が一〇〇万円をそれぞれ落合喜義のために立替えてくれたのである。

落合喜義が自分で家賃を受領しなかったのは、由里完二郎、本間武雄に対する右立替債務及び本間武雄に対する従来からの金一、三〇〇万円の借入金債務を右家賃をもって順次支払っていたからである。

右のごとく、本間武雄らの本件建物の使用は、落合喜義及びその相続人たる被告落合らの計算においてしてきたものであり、本件建物の所有名義も被告落合らのものであるから、何ら賃借権の無断譲渡には該らない。

同3の(二)の書面がその主張の日に到達したことは認める。

第三証拠≪省略≫

理由

一  請求原因1ないし3の事実並びに本件建物のうち被告本間則行が階下部分六一・九七平方メートル及び二階北側道路から二番目の室一四・八七平方メートルを、被告杉本勝美、同根本正男、同江口宗弘がそれぞれ原告ら主張の本件建物部分を占有して、本件土地を占有していることは当事者間に争いがない。原告らは、そのほかに、被告本間則行が本件建物の二階北側道路から一番目及び三番目の室各一四・八七平方メートルをも占有していると主張するけれども、その事実を認めるべき証拠はない。

二  訴外片山源が本件土地の以前の所有者重城定吉から本件土地を含む一三二番地の二の土地を賃借し、昭和九年一一月頃訴外山本久三郎が右片山源から本件土地部分を転借し、本件旧建物を建築所有していたこと、昭和一七年九月三日落合喜義が右山本久三郎から本件旧建物を買受け、敷地(本件土地)転借権の譲渡を受けたこと、昭和二三年二月一二日以降は白川喜代(地主)と落合喜義(借地人)との間に本件土地につき建物所有を目的とする賃貸借関係があったこと、(この賃貸借の存続期間とこの期間を、昭和二三年二月一二日から起算するか、昭和九年一一月から起算するかについては争いがあるが、賃貸借関係と転貸借関係は当事者を異にする別異の契約関係であるから、従前の転貸借の期間がその侭当然にその後成立した賃貸借の期間に受継がれて算入されるということはあり得ない筈のものであり、本件土地の右賃貸借の期間は成立の時点たる昭和二三年二月一二日から起算さるべきものである。そして、この賃貸借において存続期間の定められた旨の証拠はないから、その期間は借地法第二条により三〇年となる。)落合喜義は昭和二七年頃墨田区八広一丁目に住居を建築してそこへ転居し、以後は同人の従業員松葉某が本件旧建物に居住していたこと、は当事者間に争いがない。

三  そこで、借地権無断譲渡の点から検討する。≪証拠省略≫を総合すると、次の事実が認められる。

落合喜義は、その経営する日新染色が昭和四〇年頃倒産し、その頃までに個人として訴外本間武雄から金一、三〇〇万円もの金員を借り受けており、この弁済に苦慮していた。落合喜義は昭和二七年九月より昭和四五年五月までの間本件土地の地代の供託をしていなかったが、同年五月二六日になって右地代を供託した。落合喜義は、昭和四五年七月頃、本件旧建物を空屋にし、右建物を敷地(本件土地)賃借権とともに他へ売却して、売却代金で本間武雄に対する債務の返済の一部に充てようと企てたが、賃貸人(地主)たる白川喜代の承諾が得られなかったので右計画は頓挫した。そこで次善の策として右建物を他に賃貸し、その賃料収入をもって本間武雄に対する債務の支払いに充てようと考え、相談相手であった訴外由里完二郎と債権者の本間武雄に図ったところ、同人らは、「建物はすこぶる古く、手狭であるから、余り高い賃料は期待できそうもない。むしろこれを大規模に増・改築して二階建にした上、アパート形式にして賃貸する方が賃料収入も多く、かつ債権の回収も早まり(約一〇年で回収できるものと考えた)、双方に好都合ではないか。」と提言した。

そこで落合喜義は由里完二郎を同道して賃貸人(地主)の白川喜代方に赴き、右の件の承諾を求めるべく交渉したが、同女は落合喜義らの右申出に色よい返事を与えなかった。そこで、落合喜義らは「どうあっても建てさせてもらうから」と言い捨てて退席し、白川喜代も「勝手にやれ」と言い放ち、交渉は決裂した。しかしながら、落合喜義らは、他に良い返済方法も見当らないため、本件旧建物の増改築により賃料収入の増加を図って本間武雄に対する債務弁済の途を講ずる方策(本間武雄にとっては債権の弁済を確保する方策)をあきらめきれず、昭和四七年一月二五日頃、本間武雄において創美建設株式会社(代表者・小笠原和裕)との間で、本件建物の建築請負契約を結び、その工事にとりかかった。右工事はいわゆる「おかぐら」(平家建の本件建物を利用して、二階を増築する方法で、建築費が安上りになる利点がある。)で建築する予定であったが、工事に取りかかってみると、旧建物が予想以上に傷んでいて、利用できる部分が僅少であった。そのため、請負代金は当初金二六五万円の約定であったが、結局金三〇〇万円の工費を要し、そのうち金一〇〇万円は本間武雄が落合喜義に貸増しをする形式で、残りの金二〇〇万円は由里完二郎が落合喜義に貸付ける形式で、それぞれ支出した。右契約書面の注文主は本間武雄としてあったが、敷地利用権との関係その他を考慮し、建築確認申請は落合喜義名義でなし、昭和四七年三月九日付で、白川喜代を債務者として、当庁で工事妨害禁止の仮処分を得て、工事を続行し、昭和四七年七月頃本件建物が完成した。本件建物の火災保険契約、固定資産税、都市計画税等はすべて落合喜義名義で契約および納税されているが、火災保険金は現実には由里完二郎が支払い、納税は本件建物の賃料収入の中から由里完二郎が支払っている。本件建物完成後、本間武雄が創美建設株式会社の小笠原四郎から建物の鍵を受取ってその引渡を受け、前記本間、由里両名協議のうえ、階下部分は本間武雄が全部借受けることとし、敷金六〇万円、賃料月額金六万円と定め、これを落合喜義に対する前記金一〇〇万円の貸増し金、金一、三〇〇万円の旧債権と順次相殺してゆくこととし、二階の四部屋は由里完二郎が他へ賃貸し、賃料収入を前記金二〇〇万円の貸付金に充当してゆき、完済の後は本間武雄の旧債権の支払に充当してゆくこととした。由里完二郎は二階の四部屋を自己の判断で専行して賃貸し、相手方、賃料、期間等の賃貸借条件を落合喜義や被告落合らに告げることもしていない。また部屋の賃貸借契約締結について、貸主名義も、貸主由里完二郎としてみたり、貸主落合喜義代理人由里完二郎としたり、また貸主落合喜蔵としたりしている。賃料は全て由里完二郎が受領し、これを誰にも渡していない。本間武雄の落合喜義に対する金一、三〇〇万円の旧債権については、利息日歩四銭一厘、損害金日歩八銭二厘の約定があるが、本間武雄はこれを免除するつもりでいる。被告落合らは本件建物の賃貸借について全然相談に与らず、本件建物について誰が賃借していて、どの程度の収益が挙っているかについても全く知らず、本件建物の収益が、どのように分配あるいは弁済されているのかについても全く知らず、落合喜義の債務について利息がつくのか否かさえも明確には知らない。由里完二郎は、被告杉本、同根本、同江口に対し、それぞれ各被告の占有する居室を月額金一万八、〇〇〇円で賃貸している。被告本間は二階の居室の賃料も現実には支払っておらず、本間武雄の旧債権と相殺することにしている。以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右の事実によれば、本件旧建物は落合喜義の所有であったが、本件建物完成と同時に、同人の本間武雄に対する金一、三〇〇万円の旧債権および金一〇〇万円の工事費立替金債権ならびに由里完二郎に対する金二〇〇万円の工事費立替金債権の支払の担保として、右本間、由里の両名に現実に引渡され、右両名は落合喜義に対する各債権の弁済を受け終るまで本件建物の使用収益をする権利を有すること(本件建物の使用収益をすることは、右両名にとって債権回収の唯一の手段であり、その権利の眼目である)が認められ、落合喜義は、右両名との間に本件建物につき、不動産質権を設定したものというべきである。

思うに、担保権者が担保物の現実の引渡を受ける場合には、担保権者は、建物賃借人等の債権的利用者とは違い、担保物を物権的権原によって占有、支配しているものというべきであるから、借地上の建物に質権を設定することは、敷地賃借権につき「賃借物ノ使用又ハ収益ヲ為サシメタ」ものということになり、敷地賃借権の譲渡転貸に該当することになる。

本件についてこれを見るに、原告の主張は措辞適切を欠くきらいがあるが、要するに落合喜義が本間武雄らに本件建物の占有管理処分権限を委ねたのは、民法六一二条二項の「賃借物ノ使用又ハ収益ヲ為サシメタ」ものに該るというにあると解されるところ、前述のとおり、落合喜義は原告ら先代白川喜代に無断で、本件建物を本間らに質入れしたものと認められるから、原告らは、右法条に基づき、本件土地の賃貸借契約を解除することができるものというべきである。

四  原告らが、被告落合らに対し、昭和五〇年一月三〇日、本件口頭弁論期日において、本件土地賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなしたことは記録上明らかである。

そうすれば、右同日をもって本件土地賃貸借は右解除によって終了したものというべきである。

五  そうすると、被告落合らの本件土地賃借権の存在を前提とする被告本間らの占有権限の主張もまた理由がない。

六  以上の事実によれば、原告らの本訴請求は、そのうち、被告本間に対し本件建物の二階北側道路から一番目及び三番目の室、各一四・八七平方メートルからの退去を求める部分だけは失当として棄却を免れないが、その余の請求はすべて正当として認容すべきものである。

よって訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条但書を適用して主文のとおり判決した。なお、仮執行の宣言は相当と認められないのでこれを附さないこととした。

(裁判長裁判官 藤井俊彦 裁判官 渡辺雅文 裁判官金馬建二は職務代行が終了の為署名押印することができない。裁判長裁判官 藤井俊彦)

〈以下省略〉

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